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泉をさがして
再録です。(2003年9月4日)

昨日の結婚式の話を続けましょう。
今日は、同じく新郎について、その友人が語った話。
彼らは哲学科の卒業生です。

 ――新郎とは大学の同級だったんだけど
  僕は、理系から転部して、独学でこの分野の勉強をしていたので
  まあ言ってみれば後輩みたいな感じでした。

  あるとき、大学の授業で彼のすぐ後ろに座っていたことがあって
  僕は質問してみました。
   「プラトンを勉強するにはどんな参考書を読めばいいんだろうか」
  そのとき、彼はたまたまプラトンの 『共和国』 を机のうえに置いていたので
  それを指差して、
   「これを読めばいいんだよ。それで十分さ」と。

  彼はそうやって、研究書から間接的に学ぶよりも
  研究対象の源泉 source からじかに吸収することの大切さを教えてくれた
  と僕は思います。
  そうやって彼自身も源泉をたどって日本まで資料を読みに行った。

  そしてもうひとつの大事な泉 source を見つけた。
  研究対象としての泉ではなく、自分が安らぐための泉をね。
  おめでとう。

こう言って友人はお祝いの言葉を結びました。

すでに何年か前に結婚したこの友人もふくめて
彼らがそれぞれの泉を得られたことを
この日、何とも嬉しく、また微笑ましく思いました。
# by veronique7 | 2003-09-04 06:58 | ひと
ものを見る力
再録です。(2003年9月3日)

女ともだちの結婚式に招待されて出席したときのこと。
新婦は新郎との最初の出会いについて、こんなふうに語った。

  ―― この人に最初に出会ったとき、彼はとても薄汚い格好をして
   ぼろぼろのリュックを背負っていたの。SDF (住所不定の人) のように。
   でも、そのリュックはギザギザだけども、とても丁寧に繕ってあって
   彼が大切に使っていることが分かりました。
   それを見て(あ、これは見るべきところがある人かもしれない)
   そう思って観察が始まったの。
   実際には恋におちたのはもっと後だったけど。

のろけ話と言ってしまえばそれまでですが、
彼女も見るべきところはちゃんと見ているんだなと
少々意外にも思えた。

だいたい彼女はいつも、ものを見ていない。
わたしと2人で出かけても、すれ違った人がどんな人だったとか、
何を着ていてどんな人と一緒にいたかとか、
わたしがいとも簡単に覚えていることを、彼女は全く覚えていない。
人の話さえも聞いていないことがしばしば。

でも本当にものを見る力をそなえているのは
彼女の方なのではないだろうか。

彼女のマイペースなおおらかさに、わたしはいつも助けられてきた。
何かとややこしく、つきつめてものを考えがちなわたしに対して、
彼女のものの見方はいつも公平で偏りがない。
相談するわたしをただ慰めたり甘やかしたりするのでなく
本当の意味でわたしのためになる助言を与えてくれた。

ものごとの表面、華やかで目立ちやすい部分に左右されることなく
本当に見るべきものは別のところにあるということを
たぶん彼女自身も意図せぬままに示してくれていたのだろう
と今では思う。

彼女が新郎と結婚に至るまでには長い道のりがあり
それは決して平坦な簡単な道ではなかったこと、
彼女だからこそ困難を受け入れ、乗り越えることができた
ということをわたしはよく知っている。

この日が来て、本当によかった。
末永く、幸多かれ。

と心から願った一日でありました。

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いただいたコメント
■ ピン!とくる瞬間
こんばんは、「書き込む」と告げてから遅くなってごめんなさい!!

veroniqueさんは素敵なご友人をお持ちなのですね。いえいえ、そういう些細な彼女の言動に、さりげなく素晴らしい発見をされるveroniqueさんを友に持ったご友人が羨ましいというべきでしょうか。(なんだかややこしい発言ですね^^;;)

やっぱり、結婚相手ともなると、単に外見で判断しないものですね。私の場合(おのろけになりますか?)、一見そんなことしそうにない彼が、足の悪いお祖母さんの歩調にあわせて、一歩一歩ゆっくりお家に帰っていった後ろ姿を見て、「いいかも」と思いました(笑)


Kinue (2003-09-03 21:14:42)

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■ ピン!とくる瞬間
Kinueさんコメント有難うございます。
わたしはぼーっとした人間なので、後になってから気がついて、時すでに遅しということが多いのです。ピン!とくるにも日頃から磨かれた感性と体力みたいなものが必要な気がしますね。
veronique (2003-09-07 01:05:05)
# by veronique7 | 2003-09-03 04:52 | ひと
The Magdalene sisters
再録です。(2003年8月29日)

もうひとつ、フランス映画ではありませんが
今年見たもののなかで秀作をご紹介。

マグダレンの祈り
/ アミューズソフトエンタテインメント

"The Magdalene Sisters" (英・アイルランド映画)
2002年のヴェネツィア映画祭で金の獅子賞を受賞。

ダブリンに1996年まで実在していた、修道院付属の洗濯施設の話。
Magdalene とは聖書に出てくる娼婦マグダラのマリアのこと。

法律には抵触しなくとも、私生児を生んだとか
精神薄弱だとかで、社会からはじかれた女性たちを
強制的に収容し、人生の最期の瞬間まで洗濯の重労働に課す
という恐ろしい施設です。

刑務所でも社会でも定義できない人間を収容するするために
刑務所と社会の間に深い溝が存在していたということ。

修道女たちばかりでなく町の人々にも烙印を押されている彼女たちは
たとえこの施設を抜け出しても、行く先はありません。
でも最後に女の子がこの施設を出て自由を獲得していく姿には
とても勇気づけられました。

監督の Peter Mullan は、女性の嫌な部分を容赦なく描きながらも
なおかつ女性の共感を得ることのできる稀有な作家だと思います。
重い主題でしたが、とてもすがすがしい気持ちで映画館を出ました。

硬直したカトリック修道女のヒステリーや
ある種の悟りに達したような女の子たちの表情が
とても印象的でした。
修道院長、マジでコワかった~。すごい。怪演。
(うちの近くに修道院があるので、この映画を見て以来
前を通るときちょっと緊張してしまう…)

この施設が1996年まで存在し、3万人もの女の人が犠牲になった
という事実に、なんともやりきれない気持ちになりました。
無意味な独断や偏見、大義名分や誤解がどれだけの悲劇をもたらすか。
そのことを静かに、力強く告発した作品です。

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頂いたコメント

■ マグダレンの祈り
トラックバックありがとうございます!

本当にこの映画、非常に衝撃的でしたね。主役の少女がまた個性的でよかったですね。しかし、罪を洗い流す為の洗濯なんて、屈辱的ですよね。

日本ではDVDに、ドキュメンタリー番組ががついていてこれもまた衝撃的でした。

遊女asome (2005-01-03 19:22:02)

■ コメントありがとうございます!
遊女asomeさん、

ずい分前に書いたblogなので、トラックバックするのは申し訳ないかなあ…
と思いつつ、送ってしまいました。
コメントまで頂いて、ありがとうございます。

映画のなかで、頭の少しゆっくりした女の子が
司祭に向かって 「You are not the man of the God !」と叫び続ける場面
忘れられません。
そしてその後、本当に狂っていってしまう彼女。
いたたまれないです。

本当の正しさと勇気をいつも心の芯に持ち続けていたいです。

ドキュメンタリーもあったのですね。
(そういえばこちらでも、テレビで放送していたかもしれません。)

またいろいろな映画のお話、楽しみにしています。
veronique (2005-01-04 01:25:25)
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WEBLOG 遊女asome
記事のタイトル 「マクダレンの祈り」
概要 マクダレンの祈り監督 ピーター・ミュラン出演 ノーラ=ジェーン・ヌーン2002年のベネチア映画祭の金の獅子賞をとった作品ですが、非常に衝撃的な作品です。J21さんのHPでこの映画のことを知り、非常に興味が湧き見てみました。この「マクダレンの祈り」は、アイ...
# by veronique7 | 2003-08-29 01:36 | 映画
ニコラ・フィリベールのドキュメンタリー
再録です。(2003年8月28日、2004年1月18日)

Etre et avoir ぼくの好きな先生
/ バップ

舞台になっているのはオーベルニュ地方の小さな村、
そこの小学校(兼幼稚園)で定年を迎えるロペス先生の
最後の一年間をとったドキュメンタリー作品です。

けっして裕福な家庭ばかりではなく、また教育の程度も
高いとはいえません。
農業の将来や移民問題など、フランスが現在抱える社会問題が
透けて見えてきます。

それでも、この何でもない日常の一瞬一瞬にこそ
限りない幸せと笑いがこめられているということを
ニコラ・フィリベールのカメラは確信しているかのようです。
そういう彼の視点の確かさはしっかりと固定された
安定感あるカメラワークにもよくあらわれていると思います。

フィリベール監督の作品はいつも、何げないちょこちょこっとした
幸せや喜びをユーモアたっぷりに見せてくれて
おかしなフランス人の一面がよく分かります。
彼のドキュメンタリーをもうひとつ。

パリ・ルーヴル美術館の秘密
/ レントラックジャパン

80年代の記録なので、今日のパリの雰囲気とは少々違いますが
美術館に興味のある方にはぜひお薦めです。

ルーヴル美術館は訪れるとあまりにも広くて威厳があり
入っている作品も何百年も静かにそこにいたかのように思って
圧倒されてしまいますが、それは大きな間違いだと
この映画で知りました。

そこで働く人も美術品も実に生き生きと生命を得て
動いている。
そんな様子がユーモラスに描かれています。
意外な発見がたくさんありますよ!!

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WEBLOG 熱く冷めた時間
記事のタイトル ”LOUVRE” UN FILM DE NICOLAS PHILIBERT
概要 ”LOUVRE” UN FILM DE NICOLAS PHILIBERT いやいや、いい映画を観ました。久々の感動です。パリのルーヴル美術館で働く人々とルーヴルという建物(地下の回廊、階段、裏通路、隠し部屋などなど)に視点を合わせて繰り広げられる魅力的な作品です。 裏舞台
# by veronique7 | 2003-08-28 06:02 | 映画