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ヒンデミット 『カルディヤック』
もう先週のことになってしまいましたが今年度初オペラ。

ヒンデミット 『カルディヤック』 オペラ座
指揮 Kent Nagano / 演出 André Engel
↑のサイトで写真やヴィデオ映像なんかも見られるのでどうぞ。

お話は、フランス17世紀の宮廷で話題になった宝石泥棒&殺人犯の話を
書いた E.T.A.ホフマンの幻想小説がもとになっています。
今回の演出は、この17世紀の時代背景を
オペラが作曲された1920年代のパリ、高級宝石店が立ち並ぶ
ヴォージュ広場近辺に設定しなおしました。

20-30年代特有のアールデコ様式のホテルの内装や
登場人物の衣裳 (ローウエストのワンピースとかテニスウェアとか…かわいいのです)、
それにあの両大戦間の時代がもつ特有の夢幻的な雰囲気と
ホフマンの物語自体がもつファンタスティックの雰囲気とを
融合することに成功。
さらに振り付けにもそのいわく言いがたい感じが生かされて、
歌のない場面での身体表現がとても美しかったです。
夜中にパリの屋根の上に 「無意味に」 バレリーナが踊っていたりする。

カルディヤックは才能ある彫金師で、
自分の藝術的な作品を手放すことができないので
いったん売った宝石を殺人のうえ強奪してしまう
フェティッシュなピグマリオン。

演出の時代設定を1920年代にしたことで、
悪の観念にとりつかれた人を描いた白黒映画の
雰囲気をかもしだすことにもなったと思います。
たぶん作曲したヒンデミット自身も時代の雰囲気として映画の影響を
受けているんじゃないかなあ、と感じました。

プログラムやニュースマガジンに載っていた写真を参考にすると
制作側は、ルイ・フュイヤードの 『ヴァンパイヤ』 『ファントマ』
フリッツ・ラングの 『M 呪われた者』 『Mabuse』
ミュルナウ 『ファウスト』 などを念頭においていたようです。
カルディアックがせまってくる群集に抹殺されてしまうシーンは
フリッツ・ラングの 『M』 の恐怖とすごく似ていました。
(『M』 では犯人は殺されずにすみますが)

彼の独白のアリアのシーンでは、わざと歌手をソファで
眠ったまま歌わせ(夢を見ているようにする)、夢のなかの情景として
身体の小さなパントマイム俳優を使って顧客と応対させ
カルディヤックの卑小な無意識の願望を描きだす。
「宝石を取り返して、殺してやる!」 と叫ぶカルディヤック。
ここの台詞は字幕のフランス語では動詞の活用が
条件法(仮定法)になっていて
つまり夢(幻想)のなかで仮定された話になっているのです。
本当か嘘かわからない話、それが幻想小説の要。

この演出家 アンドレ・アンジェル氏は来年シャンゼリゼ劇場で
『ドン・ジョヴァンニ』 を上演する予定です。
カルディヤック以上?に悪を象徴した人物 ドン・ジョヴァンニを
どう描くか、楽しみにしています。
by veronique7 | 2005-09-30 15:51 | オペラ


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