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モーツァルト 『ティトの慈悲』
モーツァルト 『ティトの慈悲』 "La Clemenza di Tito"
オペラ座 にて

指揮 Sylvain Cambreling / 演出 Ursel et Karl-Ernst Herrmann (←夫婦コンビ)
美術・衣裳 Karl-Ernst Herrmann

メゾ・ソプラノのスーザン・グラハムが歌う男役が
微妙な両義性をかもしだして、なかなか魅力的でした。

舞台装置は 2005年の Hein-Heckroth賞 というのを受賞したそうで
とてもカッコよかった。
ここ で見られます。
ね? とってもキてるでしょ? 狂っちゃいそうでしょ?

モーツァルトは 『魔笛』 にせよ 『ドン・ジョヴァンニ』 にせよ
数字の 「3」 を暗示させるものが多い気がするけれど (フリー・メーソンの影響?)
今回の演出は、二律背反、二面性、二次元… と
とにかく 「2」 が頭をよぎりました。
友情の信頼と裏切りが主題ですし。

装飾をできるかぎり省いた部屋の壁は下半分を
一枚板の大きなガラスで覆われていて、
登場人物の嘆きや喜びがひたすら二次元の平面に映し出される。
長い独白のアリアでは、まさに苦悩する人が鏡を通して
自分と対話する。

具体性がほとんどそぎ落とされた象徴的な舞台装置のおかげで
モーツァルトの音楽そのものの美しさがくっきりと際立ち
深い感情表現を引き出すのに成功したと思います。

王様の玉座は、後ろから見ると(舞台装置が回転すると)
墓石にも見える。
宮殿の柱は、裏側へ回ってみると
中がすっぽり空洞で、廃墟にたたずむかのように
人が座っている。
表と裏。明と暗。生と死。

策略が破綻してしまったヴィテリアは
最後の場面、白いドレスで登場する。
裾だけ細く、黄色、オレンジ、赤、赤紫、紫… とグラデーションがついたドレス。
嘆きのあまり、立つ力もなく、ドレスをかきむしる。

… と白いドレスの下から、鮮やかな赤紫のアンダー・スカートが
染みが広がるかのようにさぁっと広がってゆく。
苦悩と後悔の色に心をかきむしられる。

ほかにもいくつか、衣裳の裏地の色がとても効果的に
使ってありました。
ひょっとして、各場面の音楽の調性 (ハ長調とか) に
合わせてあったのかな、とも思いつつ…

あと今回の演出でとてもよかったのは、幕間の使い方。
舞台装置を入れ替える時間をかせぐためだと思うけど
まったく音楽がなく、幕が下りている前で
打ち捨てられた花を歌手が悲しげに拾って、オーケストラボックスへ
消えていったり。
沈黙・静寂さえも音楽の一部となって。

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モーツァルトの音楽はゆるみがなくて端正で、均衡がとれているのに
どうしてこうも艶っぽいのだろう。
あと一歩踏み間違えたら、気がふれてしまいそうなぎりぎりのバランス。
by veronique7 | 2005-06-11 06:02 | オペラ


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