人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ゴクラクでの会話
再録です。(2004年8月15日)

S... は村全体が中世のままの村である。
柱をはめ込んだ漆喰の壁を残して
傾きそうなような感じの家々が並んでいる。
わたしが居候した家もそうで、斜め前の新聞屋で
葉書を買ったら、なんとその家が写真におさまっていた。

近くには13世紀に建てられた教会の塔が
廃墟になって残っている。
普段は新しい方の (新しいとは言っても、古いのだろうが…)
ノートルダム教会でミサがあるのだけど
15日は聖母被昇天祭で特別な日なので
この廃墟に道具やら椅子やら運んでミサをするのだった。

マリーは朝からそのミサに出かけ
アントワーヌとわたしはオリンピックを見ようとテレビをつけた。
F2 (日本でいうNHK) では、ルルドに来たローマ法王のあげるミサを
中継している。
ルルドはここから近い。
「これもまた過酷なオリンピックだねぇ…」
アントワーヌと話す。

マリーが戻ってきてから、近くの山中の Lampy ランピ湖に泳ぎにいく。
ワインやチーズをつまみながら、お昼寝したり本を読んだり。

  ゴ、ゴクラクだ。たまらん。

と思わず言ってしまったら、マリーが小耳にはさんだらしい。

  M: 何? GOKLAK??

  V: いやー、楽ちんだなー、テンゴクみたい。ってことよ。
  このチーズおいしいわねぇ。そういえば
  昨日の鴨肉につけたブルーベリー入りのマスタード
  すごくおいしかったわねぇ。そうそう、
  マスタードで思い出したけど、例のブルゴーニュの祭壇画はどうなったの?

ブルゴーニュはマスタードで有名。そして
中世の祭壇画を見て歩くのが、マリーのライフワーク。

  M: フィリップ豪胆公だったか、フィリップ善良公の方だったか、
  ブルゴーニュの王様でマスタード好きな人がいて、お祭りのときに
  一晩で一樽のマスタードを使いきったらしいわよ。  
  それはともかくね、
  昨日アルビの大聖堂 で、宝物庫に祭壇画があったでしょ。
  あれ絵が2段に分かれてて、上がマリアの生涯、下がキリストの生涯
  になってたわよねぇ。上下逆だったかしら。
  そういう風に描きわけるのが、フランドル派の様式
  だったみたい。

  V: フィリップ豪胆公の注文した祭壇画も、そうだったの?

  M: いや、それがね、もっと面白いのよ。
  あれは、画家と彫刻家の合作なの。

veronique は不覚にも、その画家と彫刻家の名前を
よく聞きとれなかったが、マリーの話は続いた。

  M: それでね、外側が聖母マリアの生涯を描いた4枚の絵なの。
  受胎告知、エリザベツ訪問、東方三博士、エジプト逃避ね。
  扉になってる絵を開くと、内側に
  キリストの生涯を表す3つ彫刻があるの。生誕と磔刑と復活。

  V: おお。聖母マリアの胎内にキリストが宿るっていうことね。

  M: そういうこと。それでね、
  「4は身体、3は精神を表す」 っていう考え方が
  当時あったそうなのよ。
  つまり、この祭壇画って、精神は身体に包まれる
  っていうことを表したものなのよ。

  V: うひゃぁ。。。 virgin だった(と言われる)マリアの生涯を
  身体と表現する、っていうのが面白いわねぇ。
  なんだかちょっと、艶っぽいぐらいのマリア崇拝だよね。ふふふ
  それに身体を平面の絵画で描いて
  一方、かたちをもたない精神を具体的なかたちに
  表すっていうの、すごくしゃれたセンス。
  っていうか、それこそ藝術の真骨頂じゃない?
  中世も意外とモダンなのねぇ。

するとアントワーヌが急に起き上がって横槍を入れた。

  A: とすると、3人昼寝してる僕たちって、テンゴクにいる魂?

  V: やっぱりゴクラクよね。

と笑って、3人ともスヤーと昼寝にもどってしまったのだった。

目に見えないものを目に見えるかたちに表すことができたら
どんなにいいだろう。
無限に思えるかたちのないものを、どこにどうやって
反映させることができるだろう。
by veronique7 | 2004-08-15 05:47 | フランス


<< 迷宮の出口 アルビ行き >>